2008年01月30日

名もなき毒(宮部 みゆき 著)

まだ残暑の残る9月中旬、愛犬を連れて散歩する老人の姿があった。
公園を抜け、折り返し点にあるコンビニで紙パックのウーロン茶を買った彼は、
帰り道にそのウーロン茶を飲み、帰らぬ人となってしまった。
青酸カリによる連続無差別毒殺事件の4人目の被害者となったのだ。

財閥企業「今多コンツェルン」で社内報を編集する杉村三郎は、
部署内でトラブルを起こした女性アルバイトの経歴調査のため、
私立探偵・北見のもとを訪れる。そこで偶然出会った女子高生・美知香は、
連続無差別毒殺事件で4人目の被害者となった老人の孫だった。

そんな縁から事件のことを調べ始めた杉村の会社に美知香が訪ねてきた日、
会社のコーヒーに睡眠薬が盛られ、全員が昏睡する事件が発生する。
犯人は?そして、連続無差別毒殺事件の意外な真相とは・・・?

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模倣犯」、「理由」 が有名な宮部みゆきが贈る、連続無差別毒殺事件を扱った小説。
「推理小説」とあえて言わないのは、どうもこの作品は犯人を推理させようという
通常の推理小説にあるような意図があまり感じられなく、
かつて著者自身が「理由」において住宅ローン破綻や占有屋であるとか、
あるいは「火車」においてカード破産や夜逃げを社会問題として取り上げたように、
通常の社会生活が営めない若者のことやシックハウスの問題を取り上げた、
社会派小説の面が強いということを感じるからだ。

警察でも探偵でもジャーナリストでもない、ただのサラリーマンが
このような事件に巻き込まれ、自分で首を突っ込んでいくというのも
本来は不自然極まりないのだが、そこはやはりプロの作家である宮部みゆき。
スラスラと読ませる筆力はさすがで、3時間ほどで完読してしまった。

他人を攻撃する性格や、土壌に含まれ体調不良を引き起こす化学物質を
「毒」という形で表現している。われわれはこの毒に包囲されて生きていて、
誰しも逃げることはできない。その毒への対処を誤ると、作品中の事件のような
悲しい事件が引き起こされるということを著者は言いたかったのではないか。

この作品はハッピーエンドで終わっていて、読後感もとてもいい。
貴重な時間を使って読んだことを後悔させない、素晴らしい作品だと思う。
ただ、この「めでたしめでたし」というのが何だかとても違和感がある。
普段は理不尽なラストの小説に対して憤慨したりするのだが、
ハッピーエンド過ぎるのも現実離れしていていまいちなんだなあ・・・。


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名もなき毒
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5 みゆき節
4 続編があるのかな
5 なんとなく爽やかな読後感

mano_oil at 01:30│Comments(0)TrackBack(0)宮部 みゆき 

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