2006年06月10日

さまよう刃(東野 圭吾 著)

花火大会の夜。女子高生・絵摩は駅からの帰りに少年たちの車に拉致される。
数日後、荒川の堤防にて青いビニールシートに包まれた遺体が発見された。
遺体には、覚醒剤を打たれレイプされた形跡があった。

妻を早くに亡くし、一人娘の成長だけを楽しみにしていた絵摩の父、長峰重樹。
娘を失い放心状態だった彼の元に匿名の電話がかかってくる。
「絵摩さんを殺した犯人はスガノカイジとトモザキアツヤという男です。
トモザキの住所は足立区・・・」と。

犯人の1人を殺し、もう1人にも復讐するため猟銃を持って逃亡する長峰。
「遺族による復讐」をマスコミは大きく取り上げ、世論はおろか警察内部でも
長峰に対する同情論が密かに持ち上がる。
はたして、遺族による犯人への復讐は許されるのか・・・。

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「秘密」「手紙」「白夜行」などの作品で知られ、「容疑者Xの献身」
第134回(2005年下半期)の直木賞を受賞した東野圭吾の作品。

久しぶりに、読み切るのに根性の要る本だった。
テーマがとても重い上に、主人公があまりにも哀れで。
娘を殺された父が犯人に復讐したいという気持ちはよくわかる。
「殺すつもりはなかった」というだけで、殺人は傷害致死に切り替わり、
その上、犯人が少年ということであれば、人が死んだという重大な結果に
見合う刑罰は到底望めない。
法律が仇をとってくれないのであれば自分で、という気持ちになってしまうだろう。

この作品では読者(というか社会)に2つの問題提起をしている。
・少年に対する刑罰は軽くし、更生を優先すべきなのか
・遺族による、犯人への個人的な復讐は許されるのか
この作品を最後まで読むと、昔からかなり議論されてきているであろう
これらの問題について、深く考えさせられる。

少年法は、「未成年者は未成熟である」ということを前提に、
教育を施すことによって罪を犯した者の更生を図るという、
いわゆる「特別予防論」の考えを重視して制定されているのであろうが、
はたして、未成年だからという理由だけで成年者に比べて
一律に加害者の権利を守る必要があるのだろうか。
近年数々起こっているような、少年による殺人事件などの凶悪犯罪を
万引きやバイク泥棒などと同じ尺度で考えてしまっていいのだろうか。
(むろん、万引きやバイク泥棒も立派な犯罪ではありますが)

少年法の考え方自体は必要なものだと思う。知識不足や判断力のなさから、
思わぬ犯罪行為を犯してしまうこともあるだろう。
しかし、明らかにやる気でやっている罪まで減免するべきではない。
犯人の年齢ではなく、人格や環境などから裁判官が判断すべき問題だと思う。

また、遺族による復讐を認めるかどうかは難しい問題である。
心情的にはわかるが、現行の法制度上では認められないだろう。
認めることになると、その罪名や何親等までOKかなどの範囲を
また法制化しなければならず、それは到底期待できないと思う。
受けた被害に対してどの程度までの復讐なら認められるかということになると、
またまたさらに難しい。
人が人を裁くのは本当に難しいということなんだな。

読んだ後、これだけいろいろ考えさせられる小説は久しぶりだった。
元気な時に読むことをオススメしたい。
(テーマが重いだけに、凹んでいるときに読むとちょっと・・・)


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4 遺族によるレイプ犯への復讐は許されるか!?
5 「ミステリーの枠を広げた」小説家の新たな代表作
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2008年5月、待望の文庫化。いまでも東野圭吾ナンバー1の作品だと思う。

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mano_oil at 21:59│Comments(0)TrackBack(0)東野 圭吾 

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