2006年07月30日

秘密(東野 圭吾 著)

予感めいたものなど、何ひとつなかった。
自動車部品メーカーで働く平介は、夜勤明けの自宅で朝食を食べていた。

いつもの日課で、テレビのワイドショーをぼんやり見ていた平介は、
長野でのバス転落事故のニュースを聞き、茫然とする。
そのバスには、妻の直子と一人娘の藻奈美が乗っていたのだ。

急ぎ病院に駆けつける平介。藻奈美は奇跡的に一命を取り留めたものの、
直子は命を落としてしまう。ところが、助かったと思われた藻奈美の体には
直子の魂が宿っていた。

誰から見ても父娘だが、家では夫婦としての生活を続ける平介と直子。
しかし、対外的には父と娘として振舞わなければならない。
時は流れ、藻奈美として学校に通い続けた直子も高校生になった。

いつまでこの生活を続ければいいのか、答えはない。
2人がそれぞれ考え、導き出した決断とは・・・。

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「手紙」「さまよう刃」「白夜行」などの作品で知られ、「容疑者Xの献身」
第134回(2005年下半期)の直木賞を受賞した東野圭吾の作品です。

事故の影響で娘は亡くなり、その体に入り込んでしまった母親の魂。
古くは大林宣彦監督の映画「転校生」などでも題材になったテーマで、
「転校生」はコメディタッチで描かれていましたが、
この「秘密」はリアリティあふれる描画がなされています。
(入れ替わり自体にリアリティがないと言われればそれまでですが・・・。)

娘の藻奈美として振舞うために学校に通い、勉強する直子。
思春期になり、父としての夫を理由もわからず避けるようになったり、
直子のボーイフレンドとの淡い恋心を平介が踏みにじったりと、
仲の良かった夫婦の絆が少しずつ少しずつずれていきます。

こんなことは自分には起こり得ない話ではあるんですが、
もし自分が平介だったらどうするのか、考えずにはいられませんでした。
妻は若い肉体を手に入れ、これから青春を謳歌できるというのに、
自分は妻も娘も失い、1人で老いさらばえていくしかないというのか。
妻を手放さなければならないとわかっていつつも、それを認めたくない自分。
物語のラストでは、題名の「秘密」の意味がわかります。

広末涼子主演、滝田洋二郎監督で映画化されました。
映画は原作と意図的にラストが変えてありますが、これはこれで評価できると
思います。映画が原作の価値を落としている作品は枚挙にいとまがないですが 、
この脚本改変はアリだったと思いますね。とってもせつない気持ちになれますよ。

そして、この本のあとがきは映画版の主演女優、広末涼子の書き下ろしです。


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mano_oil at 02:09│Comments(0)TrackBack(0)東野 圭吾 

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